大判例

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名古屋高等裁判所 昭和57年(ネ)466号 判決 1984年4月16日

控訴人

朴允寿

右訴訟代理人

石上日出男

被控訴人

大和観光株式会社

右代表者

米田一也

右訴訟代理人

大脇保彦

鷲見弘

大脇雅子

飯田泰啓

村田武茂

伊藤保信

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  被控訴人と控訴人との間の別紙物件目録(一)記載の土地部分についての賃貸借契約における賃料は昭和五七年八月一日以降一か月金一万八四二三円であること、同目録(二)記載の土地部分についての同控訴人負担の通行料は右同日以降一か月金七八五三円であることをそれぞれ確認する。

2  控訴人は被控訴人に対し金九一万八八一七円及び別表2差額欄記載の各金員に対する同上利息起算日から各支払済まで年一割の割合による金員を支払え。

3  被控訴人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は第一・二審を通じこれを四分しその三を控訴人の、その余を被控訴人の負担とする。

三  この判決は第一項2、第二項につき仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は一・二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  請求の趣旨減縮により原判決第一・二項を次のとおり変更する。

(一) 被控訴人と控訴人との間の別紙物件目録(一)記載の土地部分についての賃貸借契約における賃料は昭和五七年八月一日以降一か月金一万九〇〇〇円であること、同目録(二)記載の土地部分についての同控訴人負担の通行料は右同日以降一か月金八〇〇〇円であることをそれぞれ確認する。

(二) 控訴人は被控訴人に対し金九三万七八二五円及び内別表1記載の各金員に対する各対応欄記載の利息起算日から各支払済まで年一割の割合による金員を支払え。

3  控訴費用は控訴人の負担とする。

4  第2項(二)及び3項につき仮執行宣言

第二  当事者双方の主張並びに証拠関係

一  被控訴人の主張(請求原因)

1  被控訴人は別紙物件目録(一)記載の土地部分(以下本件(一)の土地という)及び同(二)記載の土地部分(以下本件(二)の土地という)を昭和五四年五月二四日前所有者浅野悦雄(以下浅野という)から譲受けてその所有権を取得した。

2  控訴人は本件(一)の土地を浅野から賃借し、同(二)の土地を同人から通路として有償による使用を許されていたところ、被控訴人が浅野から右各土地の所有権を譲受けたため、右所有権取得と同時に右(一)(二)の土地の賃貸人たる地位、通路として使用を受忍すべき地位を引継いだ。

3  本件(一)の土地の賃料(以下本件賃料という)については公租公課その他物価の変動により改訂することができる旨合意されていた。また控訴人が負担すべき(二)の土地の通行料(以下本件通行料という)については、右通路部分を一五坪とみなして同面積の土地に対する地代相当額を右通路部分を使用する者で等分し、その額をもつて各人の通行料とする旨の合意がなされていた。通路使用者は二名であるから控訴人はその二分の一を負担することとなる。そして右通行料についても本件賃料と同様に公租公課その他物価の変動により改訂するものと合意されていた。

4  本件賃料及び通行料の合計額は昭和三三年頃から一か月二二七五円であつたが、その後の物価・土地価格の上昇、その他経済の変化により昭和五四年七月当時において右は不相当となるに至つた。

5  そこで被控訴人は控訴人に対し、昭和五四年七月二五日到達の内容証明郵便をもつて、同年八月一日から本件賃料及び通行料を一か月三万円に増額する旨表示をした。

6  またその後、更に物価・土地価格の上昇等の理由により、昭和五七年七月当時右賃料及び通行料額は不相当となつた。

7  そこで被控訴人は控訴人に対し、昭和五七年七月八日到達の内容証明郵便をもつて、同年八月一日から本件賃料及び通行料を一か月三万五〇〇〇円に増額する旨意思表示をした。

8  しかしながら被控訴人は、右増額は、昭和五四年八月一日以降の分につき本件賃料一か月一万五五〇〇円、通行料一か月六五〇〇円の限度で、昭和五七年八月一日以降の分につき本件賃料一か月一万九〇〇〇円、通行料一か月八〇〇〇円の限度でそれぞれ増額の相当性を主張し、また(二)の土地については一五坪とみなす旨の合意に拘わらず現実の面積である33.78平方メートルによつて計算するものである。

なお、本件通行料についても本件契約の趣旨からして借地法一二条二項の適用があるものである。

9  控訴人は右増額の効果を争い、昭和五四年八月一日から毎月二二七五円、昭和五七年九月一日から毎月五〇〇〇円宛供託している。

10  よつて、被控訴人は控訴人に対し昭和五七年八月一日から本件賃料額が一か月一万九〇〇〇円、本件通行料が一か月八〇〇〇円計二万七〇〇〇円であることの確認、昭和五四年八月一日から昭和五八年五月三一日までの供託額との差額金合計九三万七八二五円の支払、並びに右各差額金に対する別表1記載の各利息起算日から各支払済に至るまで借地法所定年一割の割合による利息金の支払を求める。なお被控訴人は原審における請求の趣旨を右限度に減縮する。

二  控訴人の認否及び主張

1  請求原因1は認める。

2  同2のうち本件(一)の土地に関する部分を認め、本件(二)の土地に関する部分否認。本件(二)の土地について控訴人は単なる通行権ではなく、土地賃借権を有していた。そしてその範囲も別紙物件目録(三)記載の土地(以下本件(三)の土地という)にまで及んでいた。

3  同3のうち本件(一)の土地に関する部分を認め、本件(二)の土地に関する部分否認。

4  同4のうち控訴人負担額が昭和三七年頃から一か月二二七五円であることは認め、その余の事実は否認する。なお右金額は本件(一)の土地一二坪、通路部分10.75坪合計22.75坪につき坪当り一〇〇円ということで定められたものである。

5  同5のうち通行料増額の意思表示を除き、その余の事実は認める。

6  同6は否認。

7  同7のうち通行料増額の意思表示を除き、その余の事実は認める。

8  同8は否認。

9  同9は認める。

10  控訴人は本件(二)の土地より更に奥の本件(三)の土地部分まで賃借していたもので、賃料は従来本件(一)の土地を含め一率に定められていた。そして右通路部分も単なる通行に止まらず、自家用車駐車場として使用してきたものである。被控訴人が右土地の所有権を取得した後通路部分に自動車を駐車できないよう車止めを設置した。従つて本件(二)の土地に単なる通路としてしか使用することができないので、被控訴人が同部分につき本件(一)の土地と同一割合による使用料を請求するのは不当である。そして、本件(一)の土地の賃料は昭和五四年八月一日以降一か月金一万四二〇〇円、昭和五七年八月一日以降一か月金一万七一五〇円が相当であり、本件(二)の通行料は従来通り一か月一〇〇〇円であつて増額は認められないが、かりに増額を認めるとしても昭和五四年八月一日以降は一か月四四〇〇円、昭和五七年八月一日以降は一か月五三〇〇円が相当である。

三  証拠<省略>

理由

一請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二そこでまず本件賃借権の範囲及び内容につき判断するに、控訴人が前所有者浅野より本件(一)の土地を建物所有を目的として賃借したことは当事者間に争いがない。

そして<証拠>を総合すると、控訴人の賃借権は昭和三三年九月一三日成立した民事調停に基づく金川随正の賃借権を承継したものであるところ、同調停調書によると、金川の賃借権の範囲は同調書別紙図面ホ、ヘ、チ、リ、ホ部分一二坪に相当すること、そして賃料は坪当り一〇円とし毎月末日払、期間昭和三三年九月一日より二〇年、公租公課、物価その他の変動により賃料を改定することができる旨定められていたこと、なお公道から右宅地部分に至る通路は幅一間長さ12.8間あり、金川のほか隣接賃借人木村秀一この季秀一、鄭出伊の三名が使用し、各自五〇円宛合計一五〇円を賃料支払と同時に支払う、右使用料も公租公課、物価その他の変動により改定することができる旨定められたこと、右金川賃借の宅地部分は本件(一)の土地に、三名使用の通路部分は本件(三)の土地に相当するが、その後(三)の土地の一番奥の部分につき通路を廃止され、通路としては本件(二)の土地部分に縮少されたこと、そして昭和五四年頃から賃借人が替わり、通路使用者は控訴人と被控訴人の二名となつたことが認められる。

右認定事実によると、控訴人の賃借部分は、本件(一)及び(二)土地部分であり、(一)土地部分は建物所有、(二)土地部分は(一)土地に至る通路とし、他に使用者あるときは共同使用の制約を受ける、その場合通路使用料は使用者において等分負担する旨定められていたことが明らかであり、従つて現在(二)土地を控訴人と被控訴人の二者で使用していることは約旨に従つた使用方法であり、控訴人が右通路を自己の専用駐車場として使用することができないからといつて約旨に反するものということはできない。控訴人のこの点に関する主張は理由がない。

次に(一)土地の賃料と(二)土地の通行料との関係につき判断するに、前認定によると、右通路は宅地にとつて従たる地位にあり、専ら宅地部分をその用法に従つて使用するためのものであつて、独立の効用を有するものではないこと、宅地も通路も一画の土地内にあり、一区画の土地を区分したため、各宅地部分に至る通路が必要となつたものであつて、地形的にみても宅地部分と本来一体となるべき土地であること、そして約旨によると、宅地部分の賃料も通路部分の通行料も同一期日に支払うべきものとされ、ともに公租公課、その他経済事情の変動により改定することができる旨定められており、また当初の額は宅地部分坪当り一〇円、通路部分12.8坪当り一五〇円と定められ、通行料が宅地部分の賃料に比べ特に安く定められてはいなかつたことが明らかであるから、右事情に照らすと、本件宅地部分と通路部分は同一契約に基づき賃借した一個の賃借地であり、その使用の対価も賃料・通行料を合わせ一個の賃料として観念されるものであつて、右は一体として借地法一二条にいう「借賃」に当ると認めるのが相当である。

三次に本件賃料及び通行料(以下本件借賃という)の増額請求について判断するに、昭和五四年七月二五日及び昭和五七年七月八日に被控訴人からの内容証明郵便が控訴人方に到達したことは当事者間に争いがなく、<証拠>を総合すると、請求原因5及び7の事実が認められる。そして本件借賃が昭和三七年以降一か月二二七五円であつたことは当事者間に争いがなく、<証拠>を総合すると、昭和三七年より昭和五四年八月まで及び同月より昭和五七年八月までの間にそれぞれ地価・物価の上昇その他経済情勢の変動があつたことが認められ、そして<証拠>によると、従前の借賃は不相当となり、本件借賃は昭和五四年八月一日より一平方メートル当り三八六円、昭和五七年八月一日より一平方メートル当り四六五円の各割合をもつて相当とするに至つたことが認められる。控訴人は、甲第三号証「不動産鑑定評価書」は粗賃料指数方式をとつているところ、計算の基礎となつた指数・土地価格等の数値に誤りがある旨主張するが、右証拠を検討するもこれをもつて誤りないしは不適正なものであるとは認められず、また通路部分と宅地部分の借賃に差がないとしたことも前認定にかかる諸事情に照らせば必ずしも不合理とはいえず、その他右評価を非難する控訴人主張の各点はいずれも採用できない。

右認定によると、昭和五四年八月一日以降の本件借賃は二万一八一二円((一)土地の賃料一万五二九三円、(二)土地の通行料六五一九円)、昭和五七年八月一日以降の本件借賃は二万六二七六円((一)土地の賃料一万八四二三円、(二)土地の通行料七八五三円)となることが明らかである。被控訴人は、借賃を一平方メートル当りの単価を基準として算出した場合の一〇〇〇円未満の端数は適宜切上げる旨の慣行があると主張し、控訴人は、右端数はこれを切捨てる慣行がある旨それぞれ主張するが、右いずれの慣行についてもこれを認めさせる証拠はない。

四以上によると、被控訴人の本件借賃額の確認請求は、昭和五七年八月一日以降、(一)の土地についての賃料額が一か月一万八四二三円、(二)土地についての通行料が一か月七八五三円であることの確認を求める限度で理由があり、金員請求は、別表2記載差額欄合計九一万八八一七円及び同差額欄記載の各差額金(同供託の事実は当事者間に争いがない)に対する同上利息起算日から各支払済まで借地法所定年一割の割合による利息金の支払を求める限度で理由がある。すると右と結論を一部異にする原判決は変更を免れないのでこれを変更することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、九二条を、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(山田義光 井上孝一 喜多村治雄)

物件目録、別表1・2<省略>

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